スタッフインタビューStaff Interview

脚本家から見た幻調乱歩

     

脚本 細川博司

『幻調乱歩』 シリーズも、ついに4作目になりました。

もともと1作目の『幻燈の獏』(2016)の脚本があって、アメツチの安藤くんから「何か江戸川乱歩の朗読劇をやりたいけど、何かアイディアない?」って聞かれて「もう脚本あるよ」って返したのが始まりでした(笑)。続編の構想はあったけど、まさかこんな風にメジャーな声優さんに出て頂いて、シリーズ化できるとは思ってなかったので、大変ありがたいです。

細川さんは、子供の頃から演劇をやりたいって思っていたんですか?

実は漫画家になりたかったんです。高校の美術の先生に「漫画だけ読んでてもだめだ、映画を観なさい」って言われて。それで卒業後のビジョンは特になかったけど、大阪芸大の映像学科を受けたんですね。大学に入って、脚本の勉強はきっちりやってたんですけど、少し遊んじゃって、卒業するには単位が足りなくて。どうしようと思ってたら、友達に「俺の劇団、入らへん?」って誘われたんです。その劇団はプロジェクターを使った映像演出をしていて、映像を作るスタッフがほしかったらしくて。それで、「おかん、俺、大学辞めて劇団入るわ」って、ナメたことを言いましたね(笑)

いきなり、映画みたいな展開が始まりましたね。

いざ劇団に入った頃は、映像を撮って編集して、稽古は関係なかったんです。劇団の可愛い女の子と仲良くなりたくて、稽古場に行ってみたら、演出家が芝居に指示を出していて、カルチャーショックを受けた。映画だと演技に対して「カメラの画角に収まる演技をして」とかは言うけど、演技そのものの指導はしないものだと思っていた。でも、演出ってそうなんや!って。面白くて演出家の「ダメだし」をノートを取ってたら、役者が「私、どんなこと言われてましたっけ?」って聞きに来るようになって、最初はメモを伝えていたけど、だんだん演出らしきものができるようになって。座長に「2本立て公演で、脚本は書くから、演出をしろ」って言われたんですね。その後、独自に「バンタムクラスステージ」を立ち上げて今に至ります。当時は、映画も一生懸命撮ってたけど、ある舞台を発表したら周囲の反応が変わった。で、僕は演劇の方が合うのかなと。
やりたいことと出来ることはちゃうねんな、って思いました。今も「演劇でそういうことせえへん、これ映画やろ」「よそで見たことない」って言われますけど、そこはずっと大事にしてますね。

そういう背景があったんですね。朗読劇はいつから手がけ始めたんですか?

20代で大阪の専門学校でお芝居を教えてた時に、授業で海外作品の朗読劇をやったのが最初だと思います。まだ若かったから「朗読劇って、座ってテキストを読んでるのを、どうやって演出するんやろ?」って思いながら手探りでやってました。そもそも、演劇の演出も手探りで。劇って場面転換がありますけど、僕はお客さんを待たせるのが嫌だったんですよ。だから先に映画脚本として書いて、後で場面転換を考えるようにしました。このシーンをやっている間に、次のシーンの準備は済んでいる。お金をかけられなくても、マンパワーとアイディアで考えるっていうのもそうです。

ちなみに、何か新しくやってみたいことってありますか?

それで言うと最近はミュージカルの演出もやってみたくて。8月に『バーバンク』って舞台をやったんですけど、ミュージカルにしてみたいなって。

ミュージカルですか。演出はどんな風にやります?

「さあ、ここで歌って!」みたいな?(笑)ミュージカルって、最初は会話から始まって、気持ちがだんだん高まると音楽が流れてくる。感情と音楽がシンクロしてますよね。音楽的な知識はないんで、役者さんには迷惑をかけると思うんですけど、やってみたいですね(笑)。

さて、今回の『幻調乱歩4』は、どんなお話なんでしょうか。

前作の『3』では太平洋戦争終結のあたりを描いていて、今回は昭和ですね。急速に復興が進んだ、高度経済成長期が舞台です。テレビや電化製品が普及していった時代で、“電人”も登場します。 それからキャラクターを掘り下げていて、シャオリンの完璧ではない面を見せています。かっこいいシャオリンの中に明智がいるっていうのは、外から見ても分からないけど、ある出来事が起こってシャオリンは「自分って何だろう?」って悩むんです。外見と内面って話になった時に、内面の方が大事だって考えもあるけど、僕は、外見に内面が表れるように、どちらも切り離せないと思ってるんです。

今回のお話のテーマって、何かありますか?

テーマを聞かれるのは困るな(笑)いつも脚本はテーマを決めずに書いてて、“もしこの状況になったら登場人物はどうするか?” ってことを考えてますね。一番大事な部分って、言葉にできない。一言で喋れないから、脚本を書くんです。

たしかに、言葉で全ては伝えられないですよね。『幻調乱歩』という名前の通り、どこか夢の中に入り込んだような世界観ですね。

荒唐無稽なお話ですけど、全部が適当だと「何や、嘘やん」って思われるだけなので、当時のこととか時代背景はきちんと調べて書いてます。「昔の東京ってこんな感じだったんだ」って観てるところに「そんなことあるわけない」ってことをやるから、成立する。『幻調乱歩』って名前は安藤くんがつけたのかな。シリーズ化することになった時にお互い案を出し合って、しっくり来ましたね。『調』という言葉は、僕にとっては朗読ですけど、音にした時、綺麗なメロディーになっているのかはこだわって書いています。それを声のプロに読んでもらう。さらに、生演奏ですからね。

言葉のメロディーって、もう少し知りたいです。

音読した時に綺麗かどうかですね。だから「幻調乱歩は小説や」って思って書いてます。三島由紀夫とか中原中也が好きなんですけど、堅い言葉で音も綺麗だなっていうのが心に残ってて、台詞を書く時も大事にしてて。耳で聴いた時に心地よいか、自分の感覚を信じて書いてます。
乱歩先生の文章も好きです、読みやすいというか、当時にしては少しポップなところもあるかもしれない。あと昔の小説家ってみんな地の文に特徴があって、誰が書いたかすぐ分かる。これ細川が書いたんやって分かるように書きたいですね。あまり難しい表現ばかり使っても今の若い人には届かないので、ぎりぎりなところを狙ってますね。

たしかに『幻調乱歩』の脚本は、細川さんらしさを感じます。言葉のほかに、心がけていることってありますか。

すぐれた作品って、いま何を見ているか、メディアそのものを忘れちゃうんです。だから朗読劇っていうことは忘れさせたいですね。朗読劇を観せられてる、っていうのはしんどくて「気が付いたらあっという間に終わってて、そういえば朗読劇を観てたな」ってお客さんには思ってもらいたい。あと心掛けているのは、ハリウッド映画のようなスケール感。声優さんも音楽も、劇場映画みたいな座組みだから、ただ座って読んでいる、だけじゃなくて、絵が見えるように書きたいんです。脚本に地の文を書いているのは、情景を描写することでストーリーが進んでいくから。自分では当然と思ってたんですけど、独自性なのかな。

アンサンブルの皆さんが、声で効果音を表現するのも『幻調乱歩』シリーズの見どころですね。

『幻燈の獏』から「ゆあああああん」というオノマトペ(擬音表現)が登場していました。 オノマトペは、他の朗読劇だとあまりやってないかもしれませんね。乱歩先生の作品が持つ不気味さは、人の声で表現すると、人肌のような質感と美しさがのってくるんです。オノマトペとしては、中原中也「サーカス」の「ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん」に、影響を受けています。効果音をSEで表現するのが嫌で、人の声でやりたかったんです。発声練習の中に鼻濁音とか、ハミングとか、色々あって。その発声練習を皆さんにやってもらって『幻燈の獏』の音波兵器に見立てたりしました。

『夜明けに怯える怪機城』ではどんな音が出てくるんでしょう。

今回は電気の機械音です。一度、稽古したんですけど、機械の音ということで、サブキャストの皆さんはちょっと苦戦していました。僕は稽古の時に、演出の扇田さんの隣にいて「こんな音で出してください」というのを伝えさせてもらっています。例えば効果音で「ういいいいん」って書いているところも、色んな読み方があるので。ちなみに前回の『東京ニュートロン曠野』は空気感、荒野に吹きすさぶ風をテーマに表現してもらいました。最初はみんな「おお…これを声でやるの?」って反応ですけど、いつも頑張ってくれるから本番を聴くと感動するんです。だからもっと難易度を上げてしまう(笑)。

『幻調乱歩』の世界に流れる音楽についても、聞かせてください。

すごくいいですよね。僕は良すぎると黙っちゃうタイプなんです。例えばいい映画を観て「よかった…」だけで、言葉が出ないイメージですね。音楽チームの皆さんは、作品を深く理解してくれています。「そうきたか」って予想外に思うこともあるし「ここにも曲をつけましょうか?」って提案をしてくれることもあって。メインテーマは何というか、生まれる前から知ってたように、しっくりくる相性の良さも感じています。

生演奏で舞台にジャズが流れているのって、いかがですか?

ハードボイルドでいいですよね。もともと、アルゼンチンタンゴとかが好きで、舞台にもそういう曲を使うことが多かったので違和感はなかったですね。逆に、メインテーマから影響を受けています。特に『夜明けに怯える怪機城』はちょっと「ルパン3世」風な感じですけど、音楽からもインスピレーションを受けていると思いますね。

最後に、改めて考えると、この作品って一体何だろうって未だに思うんですよ。細川さんはこれ、何だと思います?

これが『幻調乱歩』です(笑)。あえて言葉にすると…、音楽を作ってくださる皆さん、声を出して朗読してくださる皆さんとつくる総合芸術。なんというか圧力がありますよね。「うわ、処理でけへん」っていうくらいに受け取る情報量が多いってことが夢心地なのかと。
僕、作り手よりもお客さんの方が色んな作品を観てらっしゃると思ってるんです。あまり劇場に来ない方でも、読書をしたり、YouTubeやTikTokを観たり、自分よりもお客さんの方が賢いと思っていて。自分より賢い人を上回らないと、おもてなしはできない。今はものすごく情報量が多い時代ですけど、「この舞台を3時間観に来てもらったら、ものすごい情報量と情念を浴びせ倒します」っていうおもてなしをしたいと思ってます(笑)。そして、美しさですね。言葉や声、音楽、セットと光、あらゆる美の形をぎゅっと圧縮して、それも浴びせますよ、どうですか?って、苦しみながらやっています(笑)チケット代以上の値打ちを出さなあかんという、命がけでおもてなしをさせてもらいます。


ありがとうございました。


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