「幻調乱歩4」の稽古があったと伺いましたが、いかがでしたか?
今回の音楽は完全に新しい感じに変わりますね。作曲は水流さんで、前回と同じメロディーラインもたくさん出てきますが、サウンド感は全く変わります。
演奏している楽器のことを教えてください。
ありがとうございます。サックスは1959年製のセルマーですね。『幻調乱歩4』の本番もこれで演奏します。
門田さんが音楽を始めたきっかけを教えてください。
そもそも子供の時は、音楽をやるなんて1ミリも思ってなかったんです。父は絵を描いていて、若い頃は母と舞台に関わったこともあったそうで。9歳離れた兄は美大に通っていたので、僕が小学校の頃に、家で木炭デッサンするのを見ていたんです。僕も美術をやりたいなと思って美術部に入ったんですけど、ちょっとイラストを描く感じだったのですぐやめちゃったんですね。美術室の向かいに音楽室があって、誘われて吹奏楽部に入ったっていうのが音楽を始めたきっかけでした。楽器を弾くこと自体は好きだったんですけど、自分が演奏するのは恥ずかしいなと思ってて。音楽の授業でテストがあるじゃないですか。皆の前で弾くのは恥ずかしいって先生に言ったら、その学年は皆1人ずつ個別に、先生の前で弾くことになったんですよ(笑)。
今の姿からは想像できないです(笑)。何がきっかけになるか分からないですね。
吹奏楽部では、最初トロンボーンをやりました。途中から本気でやってみようと思って、家族会議で「何か楽器をやるなら買ってやってもいいか」って話になって。学校ではトロンボーン、家ではサックスを練習していました。高校になってから本格的にサックスをやりました。色々と悩んだこともあったから、常に何かを求め続けてたり、どうやって自分なりにやるのかっていう回路が自分の中にできていって、個性になったのかなと思いますね。
「幻調乱歩4」に関わるようになったきっかけを教えてください。
飲み会でプロデューサーの安藤さんとお会いしたのがきっかけです。共通の知り合いがエンタメ関連ってことで声をかけてくれて。何かあったらお願いしますみたいな感じでその日は終わったんですけど、『2』の初公演の時に「今後ちょっとジャズっぽい感じをやりたいから、良かったら一度見に来てください」と声をかけてもらったんですよ。それから1年くらいして、『3』に入らせてもらって。本当に繋がるとは思ってなかったです。声優さんたちも毎回、豪華ですよね。立木さんは以前PE’Z時代に何度かお世話になった事があって、でも直接の面識があった感じではなくて、去年の『3』の現場で「はじめまして」ってご挨拶したのが10年越しぐらいだったんですが覚えていて下さってすごく嬉しく感慨深かったですね。僕自身が『幻調乱歩』の演奏で今まで集めたメンバーも、色々な現場のご縁で集まってもらいました。
そもそも『幻調乱歩』とジャズを組み合わせたのってどんな経緯だったんですか。
台本の時代背景をもとに安藤さんと話していて、『3』の舞台は、音もビジュアル的にも、生のウッドベースを弾いていたらかっこいいねって話で始まりました。それでピアノも、グランドピアノは無理だけど、アップライトにしたらとか。インストのジャズがいいねって、そんなアイディアで始まりましたね。
今回の四重奏団の皆さんとは長くやられているんですか?
ここ何年かの間に、アーティストのサポート現場で会った方々です。ベースの千ヶ崎学さんは、玉置浩二さんの現場で出会って3年目くらいになります。バンド経験の豊富さに裏付けられた独自のグルーヴ感が素晴らしく、いつか是非ご一緒したいなと思っていて。大坂孝之介くんは手嶌葵さんの現場で一緒で、バックボーンにきちんとしたジャズがありながら幅広いジャンルに精通している安心感から今回お願いしました。
『4』では、サックスとDJがどんなセッションをするか楽しみです。
ぜひ楽しみにして頂きたいと思いますね。今回DJを担当するDJ 1,2とも玉置浩二さんの現場で偶然一緒になったんです。バンドサウンドの上に味付けをしてスクラッチのプレイをしたり、ソロプレイヤーとして場を盛り上げたり。その時から「色んなことができそうだな」って思って、「いつかなんか一緒にできたら良いね?って」そんな話もしていたんですね。ちょうど『幻調乱歩4』のお話が、電気とか機械とかがキーワードになると聞いて「もしかしてドラムの代わりをDJにして、大胆にしてみたら面白いんじゃないか?」って。そのアイディアが割とすんなり通って(笑)。
ドラムのいない編成には、びっくりしました。
そうですね。今回の様にガラッと音の方向性を変えたい時に、生楽器をエレキに持ち替えましただけではちょっと弱い気がして、ドラムをDJに変えちゃうぐらいでやっと伝わるかなと思いました。
DJがドラムの代わりになる…どんな演奏になるんだろう。
今回のDJは、分かりやすく言うと水流さんの曲のドラム打ち込みパートを、DJが移植し直すという感じですね。ただ、DJに差し替えたとはいえ、アコースティックな雰囲気も時には欲しい。音源のサンプリング=ジャズの録音音源の一部を切り抜いてループさせたりするのもDJならではの腕の見せ所で、生感もカバーできたらと思います。だから皆さんがDJと聞いた時にイメージするよりもっと、生楽器の音の表現ができるんじゃないかなと思います。
水流さんにDJのアイディアを伝えた時ってどんな反応でしたか?
水流さんは割と何でも「いいですね」って受け入れてくれるんですよ。もしかしたら内心びっくりしていたかもしれないですけど(笑)。水流さんのメインテーマは、エレクトリックと生のバランス感がすごく良いなと思いました。僕のライブにも来てくれたので、その時にDJ 1,2を紹介したところから色々とコミュニケーションを取ってくれましたね。
朗読劇で演奏する難しさはありましたか。
去年の『3』が初めてだったので、僕もまだ1年ぐらいしか経験がないんですけど。入ってみて、分かったのは、朗読劇って声だけじゃないですか。マイクを使ってるとはいえ、その声の部分や音響って、繊細なんだなってことに気づきました。『3』の最初の公演は、大きめの音量で吹いていたんですけど、それだと声優さんは後ろからサックスの大きな生音が聴こえることになってしまって、割としんどいんだなって分かって。舞台全体のバランスを見て作っていかないといけないんですね。『3』は、ドラム、ベース、ピアノも含めて4つの楽器全部が生音だったので、まあまあ爆音だったはずなんですよ。
それで、声優さんにとってやりやすくしようと思って、3月の『乱歩大系』の時に、生音をカットする方法で色々と調整しました。例えば、ベースやピアノのアンプは置かないとか、サックスとドラムをクリアソニックというパネルで囲ったりしたらだいぶスッキリしました。さらに『4』はエレクトリックな音楽が多いので、僕以外の楽器の生音はカットする形にしました。
音量を調整しながら演奏するのはすごく高度なことですよね。
割とそういうのは好きというか、クラシックをやってたという経験も生きてるかもしれません。ジャズは良くも悪くも許容される表現の幅が広く、場合によっては雑なのも許されて、その雑味が良いときもあるのですが、クラシックはより繊細なコントロールが要求されるんです。抑えて、抑えてという表現が結構あったり、音程も許される範囲が狭くて、小さい音の時は本当に小さくしないといけない。そんなクラシックの表現を楽しんでやっていた時の経験が生きているのかもしれないですね。
門田さんは、演奏する時にどんなことを大切にしていますか。
音楽って、上手かどうかより、聴いていて心地よい音かどうか、優しくてずっと聴いてられる音なのかっていうのが、実は聞き手が選ぶ上ですごく大きな割合になっていると思うんです。だから、一音でもすごくふくよかで、綺麗ないい音だなって思えたら、それだけで満たされる…自分としてはそんな表現をしたいですね。
ふくよかな音、ってどんな音だと思いますか?
その音色から色々なものを想像できたり、何かを呼び起こすような音でしょうか。専門的には倍音をよく含んでいる音、と言いますけど、そういう理論的なことだけではなくて、すごく綺麗だけど何も残らないようなものもある中で、整っているところと雑味がちょうど良い塩梅になっている音ですかね。ちょっと思い出したのは、ある人から「ジョーくんの音って人の気配がするよね」って言われたことがあって、その言葉はとても嬉しかったです。
お好きな音楽家はいますか。
今回の音源に絡めて言うとドラマーのブライアン・ブレイドとかですかね。それから、矢野顕子さんがすごく好きです。ジャズのサウンドをとても理解されていながら、日本のポップソングをジャズ特有のハーモニー使いながら歌ったり。特に弾き語りのアルバムはすごくて、あんな風な表現ができたらいいなって思ってますし、yanokamiというユニットでのエレクトリックなサウンドは、僕の中で今一番、取り入れたいと感じている絶妙なバランスです。
今回は30曲以上演奏されるみたいですね。
前回の『乱歩大系』を経験してしまったので、あのときの曲数に比べたらマシと感じてしまっているのは、ちょっと麻痺してるなと(笑)。大系は総集編だったので本当に大変でした。でも今回は、やり方も色々と変えたり、水流さんがカバーしてくれる部分が多くて、だいぶ気が楽ですね。
去年の『3』では、自分の演奏を終えて指揮をする部分も多くて、僕の頭の中では7割ぐらいそっちに労力がいってたんです。吹き終えたら、台本をずっと目で追って「はい次いきますよ」って指示を出す。決められたところを吹いたら、あとはずっとその役割をやっていたので、今回は水流さんが指揮を担ってくれる分、演奏に集中できると思います。
『幻調乱歩』の舞台には、どんな魅力があると思いますか?
僕も一昨年まで朗読劇は観たことが無くて、どんなものなのか想像がつかなかったのですが、『2』を観終わった時に、すごく面白いなって。そこに、聴き手の想像力が引き出されるという面白さを感じたんですね。自分たちがやっているインストゥルメンタル音楽とも共通していて。歌詞がある歌って世界観がはっきりしてますけど、インストゥルメンタルだとそうではなくて、聴き手がいかようにも解釈できるんです。朗読劇もそれと同じで、演技や視覚的なものが少ない分、聴き手が情景を自由に想像できるところも『幻調乱歩』の魅力だなと感じますね。
現在の門田さんにとってジャズって、どんな存在ですか?
ジャズって一口に言っても、現代ではすごい裾野が広がってますよね。ジャズフェスとかでも「これジャズなんだ!?」みたいなこと、ばっかりだったりするじゃないですか。PE’Zの時は、いわゆる古き良きジャズを自分達流に再定義できないか?、もっと自由でいいじゃんって思いながらやってました。当時20代で日本人の自分たちが思うジャズをやろうって思ってたんですが、今の年齢になって、次は何やったらいいのかってこともすごく考えていて、その一つがジャズの本質を広く伝える事なのかなと。自分の中のジャズの定義って、一緒に共演してる仲間とグルーヴを共有するってこと=現場のノリをみんなで共有することと、そうした同じグルーヴの中で即興的にやりとりをしているっていうこと。この2つが揃っていれば、すごくジャズだと思うんですよ。
そういう意味で言うと、『幻調乱歩』の舞台も、広い意味でジャズなんでしょうか。
音楽と、声優さんの演技の掛け合いっていうのができるんじゃないかっていうのが、僕が最初からずっと思っていたことです。『3』の時は、ある程度出来上がったところに演奏として入ったため、何かを作ったところまでの意識はなかったんですね。でも記憶に残っているのが、一番最初に僕の音をきっかけに始めるパートのアイディアを出した部分です。緊張感のあるサックスの一音から入ったら、何かいいきっかけになると思って。それから、読むスピードに合わせて音量をちょっと変えたり、色々やらせてもらっていました。
そういったことが噛み合った時に、演出の扇田さんが「今回、変えましたよね。何を変えたんですか?」って気づいてくださって。空気に合わせて柔軟に変化させて、それが噛み合ったら面白いなって発見がありました。相手が楽器ではなくて声優さんでも、同じ場で即興的にやり取りができていたらそれはジャズなんだ、という思いで演奏をしています。
ありがとうございました。